#016 映画『桜色の花が咲く』(2022年)を見て
~全盲・全聾(ろう)の大学教授 福島 智さんの壮絶な半生~
昨年見た映画からのレポートです。皆さま、指点字(ゆびてんじ)というものをご存じでしょうか?指点字というのは目が見えず、耳も聞こえない方の手を握って、指を重ねて指の動きでサインを送って意思伝達をする手法です。福島令子さんという、後に指点字を開発された方がいます。『桜色の風が吹く』という2022年の映画にもなっている実話です。
福島さんには当時9才になる智くんという息子さんがいました。彼は先天的に目が悪く、その病状も進み、今まさに視力を失わんとする時まで来ていました。当時の医療では水分を摂ることで眼圧が上がってしまい、病状を進行させてしまうと信じられていました。そのため、水分を一気に摂取できず、軽く口に含んで口を潤すぐらいしかできませんでした。ただ、喉が渇いて苦しむ智くんを見かねた先生や看護師さんは、少量であれば、ということで大好きなイチゴを智くんの食事の献立に入れてあげたんです。
すると智くんは「このイチゴ一つの中にも5gぐらいの水分が含まれている。これを食べて大丈夫なのか」と確認をしてきたのです。本当はイチゴをほおばって心置きなく食べたいような年頃です。にもかかわらず、こうしたことを気にしながら生活しなければならない我が子を間近で見ていたお母さんは、辛かったと思います。
懸命の治療も及ばず、智くんは失明してしまいます。孫の失明を聞いたおじいちゃんは三日三晩自分の部屋にこもって、ずっと泣いていました。それを聞いた智くんは、逆におじいちゃんを心配するんです。そしておじいちゃんに電話をかけます。「おじいちゃん、泣かないで。先生や看護師さん達も一生懸命やってくれたんだから仕方がない。それよりも、これからどう生きていくかのほうが大切なんだ。だからおじいちゃん、どうか泣かないで」と言うんです。強いですね。自分は可愛そうな存在なんかじゃない、もうすでに前を向いて動いているんだ、という意思表示です。強いですね。この強さはどうやって生まれたのかと不思議に思います。
その背後には、母令子さんの存在があったのだと思います。智くんが目が見えにくくなってきた時も、友人に手紙を書きたいと言ったら、どんなに夜遅くても聞き取って代筆しました。また点字や点字タイプライターの打ち方も覚えて、智くんが読むべきものをすべて点字で打ち直したりしました。身の回りの世話も幼い頃から、もう考えられないほど多く必要だったと思います。
後に智くんは耳も聞こえなくなってしまいます。彼は目も見えない、耳も聞こえないという状況です。その中にあって、お互いの手を触れあってコミュニケーションをとる「指点字」という方法を令子さんは智くんと共に確立します。この習得によって、点字に加えて、対面でのコミュニケーションの手段も得ることができました。
智くんはその後、点字書籍などで膨大な知識を吸収し、45歳にして東京大学の教授に就任するに至りました。勝手ながら、令子さんの思いはきっとこうだったのではないかと想いを巡らせていただきます。「絶対に諦めない、うちの子はたまたまのご縁でそのように生まれただけで、不幸な命を生きているわけではない、どうか幸せに生きて欲しい」我が子を思うお母さんの大きな願いに、智くんは包まれていました。
阿弥陀さまのご本願に耳を傾けて、ただただお任せしていく信心のあり方を考えたとき、大きな願いに気づき、その中に生きていくとはこういうことではないかと、ふと感じました。福島 智さん、現在もご活躍中です。